年金制度の新ルール2026: 「もう少し働き続けたいが、年金が減るなら時間を抑えよう」——そう考えて仕事量を調整してきた65歳以上の方が、日本全国に相当数います。内閣府の調査でも、65歳代後半の3割以上が年金の減額を意識しながら就労時間を調整していると回答しています。インドでも定年後に年金収入を得ながら働く高齢者が増えているように、日本でも生涯現役で働くニーズは年々高まっています。2026年4月から、こうした状況を変える制度改正が施行されます。在職老齢年金の支給停止基準額が月51万円から月65万円へ引き上げられ、これまで年金がカットされていた約20万人が全額受給できるようになる見込みです。
在職老齢年金 基準額65万円への引き上げ
厚生労働省の発表によれば、2026年4月から在職老齢年金の支給停止調整額が月65万円に改定されました。この基準額は、法律成立時(2025年6月)に示された62万円の水準から、賃金動向を反映した年度改定によって65万円に確定したものです。65歳以上で厚生年金に加入しながら老齢厚生年金を受け取る方が対象で、月々の賃金(標準報酬月額+標準賞与額の12分の1)と老齢厚生年金の月額を合計し、65万円を超えた場合に超過額の半分が停止される仕組みは変わりません。2025年度の基準額51万円と比べると、14万円の引き上げとなります。
計算の仕組みと具体的な変化
例えば、賃金が月46万円、老齢厚生年金が月10万円の方の場合、合計は56万円です。2025年度までは基準額51万円を5万円超過していたため、その半額の2万5千円が停止されていました。2026年4月以降は65万円が基準となるため、56万円はこれを下回り、老齢厚生年金10万円が全額支給されます。年間換算で30万円の増加につながる場合があります。ただし、老齢基礎年金(国民年金部分)はもともと調整の対象外で、改正前後を問わず全額受給できる点は変わりません。
「働き控え」問題と今回の改正の背景
在職老齢年金の支給停止基準額は、2004年の制度改革以降、物価・賃金に連動して毎年度改定されてきましたが、大幅な引き上げは長らく行われてきませんでした。一方で65歳以上の就業率は上昇を続けており、総務省によれば2023年の65〜69歳の就業率は53.5%と過去最高水準に達しています。しかし意欲があっても年金カットを意識して労働時間を抑える動きが一部業界で問題視されてきました。今回の改正は人手不足対策とも連動しており、厚生労働省の試算では新たに約20万人が全額支給の対象になるとされています。
自営業者とフリーランスは対象外
在職老齢年金の調整対象となるのは、厚生年金に加入して働く65歳以上の方です。自営業者やフリーランスは国民年金の第1号被保険者であり、厚生年金には加入しないため、この制度の対象にはなりません。また、70歳以上になると厚生年金保険の被保険者資格がなくなりますが、一定の条件で就労している場合は70歳以降も在職老齢年金の調整が適用される点にも注意が必要です。専門家によれば、高年齢雇用継続給付を受けている場合は在職老齢年金の調整とは別に老齢厚生年金が減額される仕組みもあり、総合的な計算が重要とされています。
標準報酬月額の上限引き上げと保険料への影響
今回の年金制度改正では、在職老齢年金の緩和と並行して、厚生年金の保険料算定基準となる標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられる予定です。現行の上限は月65万円ですが、2027年9月に68万円、2028年9月に71万円、2029年9月に75万円と改定される見通しです。高所得の会社員や企業にとっては保険料負担が増える一方、将来の年金給付水準の底上げにつながるとされています。厚生労働省によれば、会社員男性の約10%がこの上限に該当しており、引き上げによって将来受け取れる年金も比例して増える可能性があります。
繰下げ受給と組み合わせる際の注意点
老齢厚生年金の受給を65歳より遅らせる「繰下げ受給」を選ぶと、1か月遅らせるごとに受給額が0.7%増加します。ただし、厚生年金加入中に繰下げをする場合、在職老齢年金によって支給停止されていた分の年金は繰下げによる増額の対象になりません。支給率が平均60%だった場合、繰下げで増額される対象は本来の年金額の60%部分のみとなります。在職老齢年金の緩和と繰下げをどう組み合わせるかは、個人の収入水準・健康状態・ライフプランによって最適解が変わるため、ねんきんネットや年金事務所での個別確認が有用です。
企業と個人が2026年4月に備えること
企業の人事・労務担当者にとっては、65歳以上の従業員に対して新基準をもとに給与設計を見直す機会となります。基準額が上がることで、月給50万円台の条件でも年金との両立がしやすくなり、経験豊富なシニア層をフルタイムや専門職として活用する選択肢が広がります。個人の観点からは、ねんきんネットで自分の年金見込み額を確認し、現在の賃金との合計が65万円に対してどの程度の余裕があるかを把握しておくことが、働き方の選択に直結します。年金事務所では無料で個別相談を受け付けています。
iDeCo加入年齢の拡大と老後資産形成
今回の年金制度改正には、iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能年齢を現行の65歳未満から70歳未満へ拡大する内容も含まれています。2026年12月の施行が予定されており、定年後も働き続けながら税制優遇を受けて老後資産を積み立てられる期間が延びます。あわせて拠出限度額も引き上げられる見通しで、第1号被保険者(自営業者等)は月7.5万円、第2号被保険者(会社員等)は月6.2万円が上限となる方向で検討されています。ただし詳細な施行条件については今後の政令等で確定されます。
※本記事は2026年3月時点の情報をもとに構成しています。在職老齢年金の支給停止基準額は毎年度、賃金変動に応じて改定されます。各制度の詳細・適用条件・施行時期は今後変更される場合があります。正確な情報は厚生労働省・日本年金機構の公式ウェブサイト、または最寄りの年金事務所でご確認ください。


